(このページは2022年10月28日に更新されました)

    アクチュアリーの勉強ができる大学5選

    「どの大学に行けばアクチュアリーの勉強ができるかわからない」

    この記事はそんな学生に向けて書いています。

    はじめまして。

    アクチュアリー業務経験20年以上、大学でのアクチュアリー教育経験5年以上のあくさんです。

    アクチュアリー正会員は、日本には約2,000人しかいません。

    正会員になるためには、アクチュアリー試験に合格する必要があり、内容も多岐にわたるので、かなりの勉強量を必要とします。

    でも、資格を取ると安定した生活を送ることができます。

    大学の選択は、アクチュアリーになるという夢に近づくための重要な第一歩です。

    「どうやってアクチュアリーの勉強をすればよいのかわからない」

    地方大学出身の自分も、学生の頃は同じ気持ちでした。

    アクチュアリーになるには、アクチュアリーが教えている大学にいくのが近道。そんな発想のもと、アクチュアリーの勉強ができる大学を、独断と偏見で選んでみました!

    試験から研究まで広範に学べる早稲田大学

    アクチュアリー正会員に至るまでのパスは以下のとおりです。

    一次試験5科目すべてに合格すると準会員。その後、プロフェッショナリズム研修を受けて、二次試験に合格すると、はれて正会員を名乗ることができます。

    この長き道のりを独学で勉強するのは、正直きつい。多分それは、多くの受験生が思っている、正直な気持ちです。

    早稲田大学の大学院会計研究科の一番の特徴は、以下のように一次試験に対応した科目を受講できることです。

    試験対策だけでなく、生保・損保・年金の理論と実務を学べる点が、実務経験のない学生にとってはありがたいですね!

    一次試験の科目大学院会計研究科の科目一覧
    数学数理統計基礎
    アクチュアリー確率演習
    アクチュアリー統計演習
    アクチュアリー数学総合演習
    生保数理アクチュアリー生保数理
    アクチュアリー生保数理演習
    生命保険の理論と実務
    損保数理アクチュアリー損保数理
    アクチュアリー損保数理演習
    損害保険の理論と実務
    年金数理アクチュアリー年金数理
    アクチュアリー年金数理演習
    企業年金の理論と実務
    会計・経済・投資理論アクチュアリー会計演習
    アクチュアリー経済・投資理論演習

    アクチュアリー会の2021年度事業報告によると、早稲田大学には10名の講師が派遣されています。

    4つの大学に講師派遣していますが、10名というのはその中でも最大です。

    つまり、アクチュアリー会も、早稲田大学でのアクチュアリー教育に一番力を入れているということです。

    このうち、「アクチュアリー生保数理演習」は、早稲田大学ティーチングアワード総長賞を受賞しています。

    2014 年度より、優れた教育方法と創意工夫の普及により教育の質のさらなる向上をはかるとともに、学生授業アンケートの活用とその質的向上を目指す一環として、優れた教育を実践している教員に対して早稲田大学ティーチングアワードを授与しています。本学の正規科目を担当する教員を対象に、科目を設置する学部、研究科および研究教育センターごとに受賞者が選出されます。

    早稲田大学ティーチングアワード受賞者(2021年度秋学期)

    大学院会計研究科では、一次試験に対応する科目だけでなく、エンタープライズ・リスク・マネジメント(ERM)、データサイエンス、プロフェッショナリズムのように、昨今アクチュアリー実務で注目の集まっている科目も受講できます。

    科目
    ERMエンタープライズ・リスク・マネジメント
    リスクファイナンス
    データサイエンスビジネス数学
    ビジネス確率統計
    データサイエンスⅠ
    データサイエンスⅡ
    統計ソフトによるデータ解析
    多変量データ解析
    予測モデリング論
    応用確率モデル理論
    時系列解析
    リスクデータサイエンスWS
    データサイエンス基礎WS
    データサイエンス実務WS

    「でも、自分は数学が得意なので理系に進学しようと思っていたんだけど…」

    ご安心ください。

    そんな学生の声にこたえるために、早稲田大学の大学院生であれば、会計研究科の科目の一部を受講できます

    生保数理、損保数理、年金数理はその対象となっているので、詳しくはアクチュアリー・プログラムのサイトでご確認ください!

    「でも、早稲田の大学院生ではないんだけど…」

    大丈夫です。

    他の大学の大学院生や社会人であっても、一般科目等履修生として、講義を受けることができます。

    このように、開かれたアクチュアリー教育の場は、他の大学にも広がってほしいですね。

    1科目2科目3科目4科目
    2021年度7名6名4名2名
    2020年度4名3名2名なし
    2019年度3名2名1名なし
    アクチュアリー試験合格者

    早稲田大学には、研究熱心で業界とのパイプの強い教授がいます。

    まず、大塚先生。このアクチュアリー・プログラムの開設に尽力された、生保の実務経験豊富な教授です。

    次に、岩沢先生。ここ最近、アクチュアリー会でのデータサイエンス教育を推進されている、業界でも著名な先生です。

    さらに、野村先生。統計数理研究所から2021年に異動された、若きアカデミック・アクチュアリーです。

    そして、忘れてはならないのが、基幹理工学部の清水先生。研究者、そして教育者としての熱い想いを持った先生でもあります。

    清水先生のゼミからは、毎年優秀な学生がアクチュアリーの卵として業界に入っています。

    清水先生は、アクチュアリー関連のトップジャーナルであるASTINにも論文投稿された、日本のアカデミックなアクチュアリアル・サイエンスをけん引する、有名な先生です。

    ●3つの特徴

    1. アクチュアリー試験(一次試験)の内容を網羅した科目構成になっている
    2. 会計研究科以外の大学院生・社会人でも、アクチュアリー試験対策の授業を受けることができる
    3. 研究熱心で、業界とのパイプの強い教授が複数存在

    アクチュアリー教育の伝統や実績のある京都大学

    アクチュアリー会は、京都大学に8名の講師を派遣しています。

    これは、早稲田大学に次いで多い人数です。

    さらに、アクチュアリー会と京都大学の連携の歴史は古く、1998年から始まったものです。

    数学教室の教授から「保険数学の数式だけなら我々でも教えられる。しかし実務で数式がどのように使われているか、その心はわからない、実務家の立場でその心を教えてほしい」と要請を受けたことによる。さらには別の教授からは「大学には学生がモデルとする社会人が身近にいないが、アクチュアリーはそのモデルになりうる。数学を使って社会で活躍する姿を学生に見せてほしい」とも期待されている。

    このような大学からの期待に応えるべく、90分の授業を保険数学の単調な式展開に時間を費やさずに、実務での活用方法や留意していること、さらには背景となるアクチュアリーの役割や思考方法、背景(会計経済、運用、社会保障、リスク管理、規制)なども幅広くの講義の中で触れるように努力している。

    「京都大学におけるアクチュアリー教育の現状と展望」 (2014年)

    こんな教える側の気持ちを受けた学生が、社会人となり、現在各社の中堅クラスを担うアクチュアリーとに育っています。

    なかには、アクチュアリーのロール・モデルとなるような人も知っています。

    ウェブサイトを見ると、「ここ数年、保険数学専攻の修士課程学生は毎年5名前後で推移」とあるので、決して人数は多くありませんが、長年にわたって、少数精鋭の学生をアクチュアリーの卵として実社会に供給してきた大学でもあります。

    加えて、「海外から保険数学の講師を招聘して連続講義を実施」しています。

    例えば、過去の講師を名前を見ると、「CERAのテキストを執筆したSweeting教授」や「最も有名なアカデミック・アクチュアリーの一人であるEmbrechts教授」のように、日本のアクチュアリーも一度は聞いたことのある、一線級の講師を招聘しています。

    これは、日本にとどまらず、グローバルで活躍する人材になってほしいという、大学側の思いが込められたものなのかもしれませんね。

    日本最高峰の大学で、アクチュアリアル・サイエンスを学びたい、そんな高みを目指す人にオススメの大学です。

    ●3つの特徴

    1. 1998年から日本アクチュアリー会と連携して保険数学教育を開始
    2. いまや業界の中堅を担うアクチュアリーを輩出
    3. 海外から著名なアクチュアリーを招いた集中講義を毎年実施

    文理融合型の大阪大学

    「アクチュアリーの資格をとるには、大阪大学理学部数学科への進学が最善かどうか教えてください。」

    大阪大学のウェブサイトにこんな質問があります。

    回答をみると、

    大阪大学理学部数学科では、ほとんどの科目が「普通の数学」の科目で、アクチュアリー関係では唯一つ「保険数学」があるだけです。

    アクチュアリー志望であっても、学部の四年間は通常の学生と同じように数学の力を養成して頂くことになります。

    大学院に進学すれば、実務関係のある講師による授業も含め、アクチュアリー関係の科目が8個(2021年度)あって充実しています。つまり、大阪大学でアクチュアリー教育を受けようとするならば、まずは、学部でしっかり普通の数学の力をつけてから、大学院に進学して実務に関することを勉強して下さい、ということです。

    https://www.sci.osaka-u.ac.jp/ja/qa/qa-list/

    この回答はそのとおりです。大阪大学だけでなく、他の大学の数学科でも、アクチュアリー関係の科目を持つ大学はほとんどありません。

    回答に「学部でしっかり普通の数学の力をつける」とあります。これ、アクチュアリーとして実務を行ううえでも、すごく重要です。

    「アクチュアリー試験に合格すれば、実務で必要なスキルをマスターできますか?」

    学生からよくきく質問ですが、自分はいつもNOと答えています。

    自分の社会人経験を振り返っても、アクチュアリー試験で学ばなかった数理的スキルを、かなり身に着けてきました。

    そんなときに役立つのが、大学で身に着けた「普通の数学の力」です。

    この基礎的な学力がなければ、自分もリスクマネジメントやデータサイエンスに登場する数理的な手法を学習することはできなかったと思います。

    少し脱線しましたが、話を大阪大学に戻します。

    アクチュアリー会が派遣する講師は3番目に多く、3名の講師を派遣しています。

    アクチュアリー会の派遣ではありませんが、次に紹介する慶應義塾大学の山内先生が数理・データ科学教育研究センターで教鞭をとられています。

    さらに、年金数理人会の派遣で、年金数理をおしえる実務アクチュアリーもいます。

    この数理・データ科学教育研究センターは、金融・保険・年金数理の専門家を育成する文理融合型教育プログラムです。

    この研究センターでは、3つのコースを設けています。

    • 数理計量ファイナンスコース
    • 金融経済・工学コース
    • インシュアランスコース

    保険や年金の数学的な基礎を学びつつ、時系列解析や金融工学などのファイナンスの勉強もしたい。そんな欲ばりな学生にオススメの大学です。

    ●3つの特徴

    1. 金融分野におけるスペシャリストを継続的に育成
    2. 保険数理だけでなく、ファイナンスまで幅広に学べる
    3. アクチュアリー関係の科目の多くは、実務経験者がおしえる

    生保数理の巨頭を有する慶應義塾大学

    山内先生の名前を知らないアクチュアリーは、日本にはいないのではないでしょうか。

    それぐらい有名な先生です。

    何を隠そう、自分もアクチュアリー講座の山内先生の講義を受けていました。それぐらい長い間、生保数理をおしえ続けている先生です。

    山内先生のユーモアを交えたわかりやすい講義は、今でも自分の講義のお手本になっています。

    自分が若かりし頃、山内先生が「若者は海外を目指すべき」と言われていたことが、今でも印象に残っています。

    「山内先生の講義を聞いてみたい」

    そんな学生には朗報です。最近、山内先生の講義の内容がYoutubeで公開されました!

    生保数理の試験範囲を網羅した内容です。さらに、実務に即した説明を行っているので、生命保険の実務経験のない人にとってもオススメです。

    生保数理を受験する学生は、ぜひ視聴してみてください!

    加えて、慶應義塾大学では、OLIS(公益財団法人 アジア生命保険振興センター)が寄付講座をおこなっています。

    この講師陣も、生命保険業界の中では著名な方ばかり。例えば、金融庁の保険課長、米山先生、植村先生、そして国際アクチュアリー会の元会長の日笠さんとそうそうたるメンバーです。

    学生の頃から、こんな講師陣の話が聞けるのはうれしいですね。

    また、慶應義塾大学の理工学部には、清水先生と同世代のアカデミック・アクチュアリーである白石先生がいます。

    白石先生は、生命保険会社や再保険会社での業務経験を持つ、バランス感のある先生です。

    ほかにも、経済学部には石井先生もいます。

    日本の将来死亡率推計を行っていた先生なので、日本のアクチュアリー業界では有名な方です。

    ●3つの特徴

    1. アクチュアリー講座で長年、生保数理を教えている山内先生の講義を受講できる
    2. OLISの寄付講座で、生命保険業界の重鎮の話がきける
    3. 実務とアカデミックの両方の経験を有する白石先生、死亡率研究の第一人者の石井先生を擁する

    リスクマネジメントといえば明治大学

    松山先生の名前も、知らない人はいないのではないでしょうか。個人的にも大変お世話になっている先生です。

    山内先生とならんで、日本で有名なアカデミック・アクチュアリーの一人でもあります。

    もともと人の生死を対象とする生命保険のリスクを確率モデルで保険料として見積もり保険事業を健全に運営していくための数学として出発したアクチュアリー数理は、生命保険から交通事故や火災のリスクを対象とする損害保険の領域に広がり、長い歴史の中で多種多様なリスクを扱うようになりました。一方で、銀行や証券といった金融の分野で20世紀中盤に登場したファイナンス数理は、市場を通じてリスクが自由に他者に移転(ヘッジ)できることを前提とすることで大きく発展しました。その後、経済の自由化・グローバル化の中で金融と保険の境界が曖昧になり、伝統的アクチュアリー数理の限界が認識されるようになりましたが、一方で、いつでもリスクの自由な移転が可能という前提に無理があったことや多種多様なリスクの混在などの現実を背景に、金融機関のリスク管理の失敗がしばしば大きな社会問題を引き起こすようになりました。

    そのような中で、多種多様の移転困難なリスクを扱ってきたアクチュアリー数理が、保険の枠を超えてリスク管理分野で改めて注目されています。このため、各国のアクチュアリー組織が協力して全体的リスク管理(ERM)のための教育と資格認定(CERA)の仕組みを2009年に立ち上げました。こうしたERM に向かう流れの中で、私は経済価値という概念でアクチュアリー数理とファイナンス数理を融合させることに取り組んでいます。

    https://www.meiji.ac.jp/ims/chikara/chikara_10.html

    松山先生は、特にリスクマネジメントの分野で活躍されています。

    例えば、「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する有識者会議」のメンバーとして、今後の日本の保険会社の行く末を決める重要な議論にも関与されています。

    松山先生のゼミ生は、アクチュアリー会や日本保険・年金リスク学会でよく論文発表をおこなっています。

    例えば、

    • 「テンソル解析を用いた死因別将来死亡率の同時推定」(実務ジャーナル「リスクと保険」 第16号 2020年3月)
    • 「経済価値評価の下で持続可能な資本配賦原理」(実務ジャーナル「リスクと保険」 第14号 2018年3月)
    • 「学習アルゴリズムによる整合的多重脱退モデル推定」(実務ジャーナル「リスクと保険」 第13号 2017年3月)

    非常に研究熱心で、若手の育成に尽力されている先生です。

    明治大学は、今回とりあげた4大学のように複数のアクチュアリーを抱えているわけではありませんが、松山先生の存在感と躍動感は、それを補って余りある、と言っても過言ではありません。

    ●3つの特徴

    1. 経済価値ベースのソルベンシーの有識者である松山先生を擁する
    2. ゼミ生が、アクチュアリー会や日本保険・年金リスク学会で積極的に論文発表
    3. 試験対策という意味ではなく、研究熱心な学生にオススメ

    以上、アクチュアリーによるサポートが厚い大学5選でした!

    番外編

    • コピュラやリスク尺度などの金融リスクマネジメントに興味ある方は、一橋大学の小池先生がオススメです。