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アクチュアリーは国際的な専門職

アクチュアリーの仕事で用いる数理的手法は、世界共通です。これを「国際アクチュアリー統一記号」とよんでいます。数学の記号が世界共通であるのと似たイメージですね。

国際的な意見交換や技術交流の場も多く、その歴史は19世紀後半までさかのぼります。初回の国際アクチュアリー会議は1895年@ブリュッセルで開催。この国際会議で、矢野恒太(のちの初代日本アクチュアリー会会長)が副議長をつとめ、帰国後に保険監督法を作成。そして、1899年に日本アクチュアリー会が設立されました。このような国際交流が古くからあったことが、日本の保険事業とアクチュアリー会の創設に繋がっています。

国によって保険や年金に関する状況は異なります。各国でアクチュアリーの職務内容に求められる資質は異なりますが、国際アクチュアリー会は、その資質の内、万国共通の内容をとりまとめ、1998年に教育シラバスを作成しました。

この教育シラバスを満たすことが、国際アクチュアリー会に加盟することの必要条件となっています。この要件を満たすアクチュアリーをFully Qualified Actuaryと呼びます。2022年2月時点の各国のFully Qualified Actuaryの人数は、以下の通りです。

国名アクチュアリーの数
オーストラリア3343人
カナダ6042人
中国1015人
ドイツ5209人
香港1096人
インド464人
イタリア1065人
オランダ1274人
シンガポール565人
南アフリカ1650人
韓国960人
英国14918人
米国(SOA)30985人
米国(CAS)9409人
日本1931人
国際アクチュアリー会のサイトより(2022年2月時点)

アクチュアリアル・サイエンスとは

アクチュアリアル・サイエンスは、リスク・不確実性・金融に関連する諸問題に、様々な分野の科学的な原理や技術を応用する手法のことです。

最初のアクチュアリーは、18世紀初頭に生命保険会社に所属し、会社の資産と負債を管理するための科学的な根拠を提供しました。保険金は、被保険者の年間死亡者数によって決まります。死亡率のモデリングは、ビジネスでも科学的にも関心の高いテーマとなり、多くの重要な科学者や数学者を保険数理の問題に引きつけました。その結果、確率の分野における初期の研究の多くは、保険数理の問題に対する解決策の開発と密接に関連していました。

死亡率に関する最古の研究は、ジョン・グラントやエドモンド・ハレーが作成した生命表です。生命表は、各年齢まで生存すると予想される生命の割合を指定することで、生存モデルを要約した表のことです。17世紀初頭のロンドンの死亡率データを用いて、グラントは生命表を提示しました。天文学の分野で有名なエドモンド・ハレーは、17世紀後半のブレスラウの死亡率データをもとに、任意の数の出生から各年齢の生存者の平均割合を計算できる生命表を作成しました。

アクチュアリアル・サイエンスは、観測された死亡率データに基づいた生命表に、複利の概念を組み合わせることで始まりました。複利でお金を貸すことと、各年齢での死亡確率を統計的に測定することを数学的に組み合わせることで、生命保険や年金を長期的に、かつ健全に運用することが可能になりました。

アクチュアリーはモデルを用いてリスク・不確実性・金融の諸問題を解決します。モデルベースのアプローチは、与えられた問題の目的に照らし合わせて考える必要があります。

保険数理の問題の多くは、将来の保険料を予測するための数理モデルを構築することで解決されます。モデルとは、アクチュアリーの知識と経験に基づき、過去のデータと組み合わせて構築された、簡略化された数学的記述のことです。データを参考にしながら、アクチュアリーは、モデルの形式を選択したり、未知の量を表すパラメータの推定を行います。モデルの選択は、「フィット感」と「簡便性」という2つの基準のバランスに基づいて行われます。

金融において最もよく知られているリスクの種類は、おそらく市場リスクです。市場リスクとは、株式や債券の価格、為替レート、商品価格など、保有資産の構成要素の価値が変化するに起因するリスクのことです。次に、重要なのは信用リスクです。信用リスクとは、ローンや債券などの投資残高に対して、借り手の債務不履行により、約束した返済を受けられなくなるリスクのことです。保険会社が再保険会社にリスクを移転する取引にも信用リスクが存在します。

さらにオペレーショナル・リスクと呼ばれる、内部のプロセス、人材、システムの不備や故障、あるいは外部の事象によって生じる損失のリスクもあります。加えて、保険関連のリスク分類として、保険契約に内在する保険引受リスクがあります。このリスクの例としては、自然災害の様相の変化、生命保険商品の基礎となる人口動態表の変化、あるいは顧客行動の変化などが挙げられます。

今日では、保険引受リスク以外のリスクについても、アクチュアリアル・サイエンスの範疇に含まれると考えられています。

今や世界はデータで溢れかえっています。今日のデータは、量と質の観点で過去のものとは異なっています。アクチュアリーが分析に利用できるデータは、エクセルに収めることができないほど膨大です。そのため、より包括的なソフトウェアが必要となります。また、データには構造化されたものや非構造化されたものなど、様々なものがあります。結局のところ、保険はデータビジネスであり、データサイエンスは、保険会社が持つデータを活用するための新たなツールと技術を提供するようになっています。

このように、時代とともに広がってきたアクチュアリアル・サイエンス-その雰囲気をこのサイトで感じ取ってもらえると嬉しいです。

(参考文献)

  • Dickson, D.C.M., Hardy, M.R., Waters, H.R.: Actuarial Mathematics for Life Contingent Risks. Cambridge University, Cambridge (2009)
  • Klugman, S. A., Panjer, H. H. and Willmot, G. E: Loss Models: From Data to Decisions, 3rs ed., New York: Wiley (2008)
  • McNeil, A. J., Frey, R. & Embrechts, P: Quantitative Risk Management. Princeton Univ. Press (2005)