長寿・健康の人口学:日本の長寿はいかにして実現されたのか?

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健康や寿命を人口学的視点からアプローチすることの意義

  • 人口学は、人々のライフサイクルを定量的に把握して、人口変動のシステムを描写する
  • 例えば、生命表。複雑な人間社会に関する統計の中でも、最も測定精度が高い
  • 人口学の知見は、長寿化という前人未踏の地に分け入り、社会や経済の再構築を迫られる国々にとって、重要な道しるべとなる
  • 科学的根拠に基づく政策形成の実現にも資する
  • 健康・長寿の格差を検出し、不自然な死因構造を見出し、それらを引き起こしている社会経済要因を特定することは、政策的対応を促し、人々の福祉と社会の前進に寄与する
  • 新型コロナで露呈した社会経済の脆弱性も含め、健康・寿命をとりまく状況は課題が多い
  • 疫学や公衆衛生学とともに長寿・健康の人口学が果たす役割は大きい

長寿・健康の人口学の構成

第1章:長寿・健康の歴史過程と現代的意義

長寿・健康の歴史を概観する章。狩猟採取時代から現代にいたるまでの寿命の変化の全体像を把握する。

長寿化は、社会経済に何をもたらしたのか?

今後何をもたらすのか?

日本は戦後、行動経済成長とともに世界一の寿命伸長を達成した。

社会の総合力が必要となる長寿化そその課題解決に向けて、今後日本の想像力と真の英知が試される。

第2章:死亡分析の方法(生命表と死亡モデル)

死亡現象を記述し、測定するために必要な生命表と死亡モデルについて解説する章。

生命表の概念、指標、応用、作成方法を含む。

生命表は死亡分析だけでなく、健康寿命をはじめとした、人口学でさまざまな応用がなされている重要な概念。

HMDプロジェクトによる国際的な生命表データベースの整備は、近年の死亡・寿命研究を大きく発展させた。

第3章:日本の健康寿命

健康寿命の概念、定義、指標の動向、研究動向を解説する章。

健康とは何を指すのか?

不健康の程度をどう測るのか?

「人生のなかで健康に過ごせる期間」という概念は誰にもりかいしやすいものだが、実用的な指標としての定義となると専門家でもただちに合意は得られていない。

日本の健康政策の経緯と実際の指標の動向も概観。

第4章:世界の健康寿命

健康寿命の世界的な研究動向を地域に分けて紹介する章。

ヨーロッパ、アメリカ、アジアなどの地域やWHOなどの国際機関では、健康に対する研究経緯や学術的、政策的関心の違いなどから、健康指標の開発に独自の展開がみられる。

EUのhealthy life years (HLYs)、米英の日常生活動作能力(ADL、IADL)、WHOの世界疾病負担研究(GBD)、中国での独自研究など、健康寿命の研究は多様性をもって発展している。

第5章:死因別に見たわが国の長期時系列死亡データについて

長期時系列死亡データの整備に関する解説が行われている章。

死因別死亡データにはICDの改訂に起因する不連続性があり、精密な分析のためには改訂前後で死因が一貫するようデータ系列を再構築する必要がある。

フランス人口学研究所を中心として、再構築した長期死因系列を国際的データベースとして整備するプロジェクトが進行している。

本章は、その共通手法の日本への適用を詳説したもの。

第6章:現代世代の健康・死亡と社会経済要因

現役世代における健康・死亡の実態とその社会経済要因について解説する章。

日本は人口高齢化に直面しており、現役世代の健康を守り、高い生産性を保つことが重要であるが、「失われた20年」の時期、現役世代の自殺の増加や精神疾患と関連する過労死が急増した。

現役世代の健康要因に関して、計量分析を行い、社会経済的地位、脆弱な社会関係資本、心理的ストレスなどが心身両面の健康を損ねる要因であることを確認する。

健康施策を考える際には、社会経済要因に対するアプローチが不可欠である。

第7章:健康格差と地域

地域間の健康格差に関する研究の経緯や格差の縮小に向けた取り組みを解説する章。

健康格差の研究は、当初から政策と結びつき、社会疫学という分野を成立させた。

健康格差の要因研究には、従来の回帰分析に代えてマルチレベル分析が必要となる。

一連のアメリカの研究では、所得格差拡大が地域・環境要因を介してすべての人々の健康水準を悪化させる「文脈効果」の存在が確認されている。

第8章:長寿化の帰結

日本の長寿化と人口高齢化の関係を人口学的に検証し、その社会保障への影響と経済・労働市場への影響、ならびにライフサイクル・ライフコースへの影響を論じる章。

日本の長寿化は、乳幼児死亡率、子供の死亡率、高齢期死亡率と、時代によって異なる年齢層の死亡率改善を経験してきた。

長寿化による生存確率の上昇は、男女の結婚年齢や離婚率の変動などどあいまって、ライフサイクルに影響を及ぼしてきた。

日本人のライフコースが典型的で均一なものから、多様なものへと変化してきた。

第9章:わが国の寿命の将来

人口学的な死亡率の将来推計を解説した章。

人生百年時代を前提とすると、今後寿命が急速に伸びるとの楽観的な見方に立つ必要があるかもしれない。

一方で、寿命には限界があり、平均寿命はもはや延びない、あるいは、今後縮小さえするのではないかとの、将来の死亡改善に関する悲観的な見方も存在する。

人口学における将来推計に基礎となる人口投影の考え方を解説する。

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