米国アクチュアリー会の「アクチュアリアル・テクノロジー」を読んで
2021年11月に行われたパネルディスカッションの議論をまとめた「Actuarial Technology」。テクノロジーの進化は日進月歩であり、アクチュアリーもその恩恵を受けている。
「テクノロジーの進化はアクチュアリー業務にどのような影響を与えているのか」
「今後進むべきリサーチの方向性は」
パネルディスカッションは、そんな問題意識のもとで行われた。
テクノロジーの進化による主要な課題
- 利用可能なツール、特に学習に時間を要するより複雑なツールの使用方法のトレーニング
- 利用可能なツールの効果的な使用
- ユーザーと開発者の将来のサポート保証
- 技術の将来の進化を見据えた戦略
- 新たな技術やツールを導入し、それに慣れること
- 適切な変更管理
- 望ましい状態の明確な記述ができるか
- ITの専門知識とアクチュアリーの知識の両方を持つ存在がいるか
- ITのサイロ化を避けること
- データマネジメントにおけるアクチュアリーの役割を増やせるか
- 今日的なコミュニケーションツールの活用
アクチュアリーが用いるデータ
アクチュアリーが用いるデータは、責任準備金の計算やプライシングに用いるものにとどまらない。アクチュアリーが扱うデータの範囲と種類は広がっている。社外のデータを用いることもある。保険会社の中にある非伝統的データには、販売や引受査定に関するデータが含まれる。
ときには、保険会社のデータはスパゲティのような構造になっている。この問題に対処するには、トップのコミットメントが必要だ。データガバナンスの強化は、組織全体の課題である。
データをクラウド環境で保存する方法もある。これを実現するには、システム部門の協力が必要となる。規制当局が、クラウドに保存できるデータを制限しているケースもあるので留意が必要である。
その他の論点としては、
- ブラックボックスなデータ
- データのバイアス
- データの品質
- データの粒度
アクチュアリーが用いるツール
新しいツールを浸透するには、時間とリソースが必要となる。そのツールが便利でも、学習することに抵抗を感じる人もいる。また、最近の新卒者はRやPythonができる人が多い一方、彼らの上司はそれを使えないこともある。
アクチュアリー業務に必要な要件は、より多様化している。例えばDataRobotを用いると、より効率的に予測モデルを構築できる。一方で、それを習得するための時間、既存システムとの統合、継続性や所有権などの問題もある。ベンダーが提供するツールをどの程度利用するのかのバランスをとるのが重要である。中身がブラックボックスとなっているツールを経験の浅いアクチュアリーが用いると、予測モデルを誤用するリスクもある。
最近の多くのツールはライブラリとして提供される。これらのライブラリは接続が明確化されており、再利用できる。オープンソースのライブラリも増加している。インターネット上の情報も多い。保険会社ではオープンソースのライブラリも監視していることが多い。そのセキュリティをシステム部門が検証している。
オープンソースのソフトには、著作権や保守の問題もある。永続的に存在する組織がソフトを作っていないケースもあるからである。オープンソースのソフトに依存することは、ベンダーへの依存と同じ課題がある。しかしながら、永続性が確保されている組織が作っているオープンソースのソフトも存在する。そのようなソフトの増加が、普及にも寄与しているというのは事実である。
データ抽出やコピーデータの管理におけるセキュリティの課題もある。SQLデータベースやPythonでの分析において、似たようなデータが複数の場所に保存されることがある。一貫したデータが用いられていることを担保するために、一定のガバナンスが求められる。
また、ネットワークやクラウドにおけるセキュリティの課題もある。ネットワークのセキュリティは重要であり、リモートアクセスの方法に依存する。