太陽生命が再保険を用いて逆ザヤリスクを解消
2022年2月14日の日経新聞に太陽生命に関する記事がありました。
太陽生命最終赤字720億円 22年3月期、逆ざや解消処理
- 2022年3月期の最終損益が720億円程度の赤字になる見込み
- 逆ザヤ契約となっている個人年金保険を出再し、損失計上
- 背景にあるのは、2025年に導入予定の経済価値ベースのソルベンシー規制
その後、太陽生命は3/31にリリースを出しています。
既契約ブロック出再に係る契約締結について
- 出再の目的は、資産運用リスクを削減し、将来の収益および資本効率の向上を図ること
- 出再先はフォーティテュード・リー社とRGA社の2社
- 取引負債規模は約5800億円
日経新聞では、第一生命の再保険にも触れていますが、その取引負債規模は約3000億円(2021年2月12日の第一生命のリリース)。単発の再保険としては、第一生命の取引を上回る規模のようです。
ここで、生命保険会社がなぜ再保険を使うのか。疑問に思った人もいるかもしれません。
そんな人の参考になるガイド「Enhancing Reinsurance」が、3月に英国アクチュアリー会から公表されました。
再保険の利用目的
伝統的に、再保険の主な目的は、保険会社のリスク戦略に従ってリスクを軽減することでした。これには、保険リスクが関係する損益のボラティリティの管理や、保険会社のソルベンシーや財務力の保護や強化が含まれます。リスク軽減には、新規リスクの不確実性、ボリューム関連の不確実性、トレンド・リスク、リスク相関、統合リスクなどが含まれます。
リスク軽減以外にも、以下のような用途で再保険が用いられています。
- 再保険会社の知識、サービス、商品に関する専門知識にアクセスすることで、事業開発、イノベーション、商品設計をサポートする
- 再保険会社の引受・支払管理能力(およびそれを支えるテクノロジー)にアクセスする
- 収益性、ボラティリティ、ソルベンシー、流動性などに関する様々な指標を最適化する
- 法定資本またはリスク資本の要件を軽減する
- 事業部門または個々のリスクについて、その性質、規模、期間、集中度を考慮し、取締役会が認めた通常のリスクプロファイル以外で引き受けることができるようになる
- 資産管理能力にアクセスする
- 市場リスクをオフバランス化する(特に、資産保証の場合)
- 価値抽出を加速し、フリー・サープラス生成を改善する
- 金融機関の代替手段として再保険資本にアクセスする
- 新規事業の資金調達、既存事業の買収、ジョイント・ベンチャー、買収の資金調達や促進、ランオフ・ブロックの処理など、金融市場の代替として再保険資本にアクセスする
- 管理業務や会計・税務上の負担を軽減する
- 不利な事象(単発、または複数回)の後の回復計画を容易にする
再保険会社を活用するリスク
再保険を活用すると以下のようなリスクやコストがあると言われています。
- 収益性の高いビジネスを手放すこと
- 再保険の追加コスト(例えば、管理、リソース、会計、モニタリング、報告、法務など)
- カウンターパーティの信用リスク
- 再保険契約の解約や再取得の際の柔軟性の欠如
- 実績が予定と乖離し始めた場合の再保険料の再設定
- 規制と会計処理の間に経済的な断絶が生じる
- 財務・キャッシュマネジメント、投資管理、担保設定
- 契約リスク、法律リスク、その他の再保険特有のリスク
最も再保険料が低い契約が必ずしてもベストではない
- 保険者が新商品を再保険にかける際、最も低価格の再保険者に出再す ることを決定することがある
- これは必ずしも純粋に定量的なアプローチではない
- なぜなら、どの再保険者にアプローチするかという定性的なプロセスを無視することになるから
- 例えば、コンペに参加したすべての再保険会社は、新商品の設計と価格設定において重要な保険数理上のサポートを提供することが期待されていたかもしれない
- したがって、これは主に定性的な決定であり、二次的な定量的要素は含まれないと考えることができる
再保険の活用を、再保険会社の技術的な専門知識を利用する方法として考える場合に検討すべきポイントは、
- 保険会社の保険数理やその他の技術的な能力は、前回の見直し以降に向上し、同程度のサポートは得られないが、魅力的な価格でリスク移転が可能な他の再保険者を利用する余裕があるのか?
- 保険会社のアンダーライティングや支払い対応能力が前回の見直し以降に向上し、再保険会社のインプットへの依存度が低くなり、これを考慮してリテンションを引き上げることができる可能性があるか?
- 保険会社は現在、関連商品について少なくとも再保険会社と同程度に正確なプライシングができるよう、十分な自社データを持っているか?
- 逆に、期待通りのパフォーマンスを発揮できていないポートフォリオがあり、再保険の専門性を高めることで、追加的なリスク・プロフィットを出再してでも価値を高めることができるのではないだろうか。
再保険の価値を図る定量的な尺度は複雑ですが、以下の3つに分類できます。
収益性
- 保険会社がどれだけの利益を期待できるかを示す指標で、"利益 "の最良推定値としてモデル化されたもの
- 収益性の概念の中にも、様々なバリエーションが考えられ、どの指標を重視するかは、各保険会社の判断に委ねられる
- VNB(新契約価値、EV指標)、IFRS17の利益、再保険ポートフォリオのIRR、RoC(資本利益率)などが候補
- また、例えば、税引前の数値をベースにするか、税引後の数値をベースにするかなど、その他の詳細についても決定する必要がある
- もちろん、収益性の指標によって挙動は異なる
- 再保険契約によって、IFRS17号の予想利益が減少すると同時にRoCが増加するかもしれないので、正確にどのKPIが関心を持つのかを明確にすることが重要
- 要約すると、これは(平均的な年における) 保険者の予想利益の指標
ボラティリティ
- 保険会社によって、ボラティリティの目標値が異なるが、ここでは、保険会社の結果の潜在的なばらつきに注目する
- これは、ポートフォリオの確率論的シミュレーションから抽出した、1:3、1:5、 1:10、1:20 の不利な結果と見なすことができる
- 収益性と同様に、ボラティリティも任意の指標で測定することができる(IRR、IFRS17利益、新事業エンベデッド・バリューなど)
- 要約すると、これは不利な状況下(悪い年)での結果の測定値
ソルベンシー
- これは、バランスシートの強さを考慮するもの
- 各保険会者は、ソルベンシー比率、絶対的ソルベンシー資本、格付け資本、あるいはその他のバリエーションを含む独自指標を持つ
- 収益やボラティリティと同様、選択された尺度の中には、多くの副変化が考えられる
- 例えば、ソルベンシーⅡのバランスシート上のソルベンシ ー比率を意味するのか、それとも内部経済資本バランスシート上のものなのか、S&Pのバランスシート上のものなのか?VaR(Value at Risk)なのか、Tail-VaRなのか?
- 損益計算書からバランスシートに移行したように見えるが、ソルベンシーⅡや他の多くのソルベンシー制度が200分の1のストレスに耐えられるだけの資本を保有していると言っていることを考えると、これは単に確率的シミュレーションから抽出された結果の200分の1ストレスである可能性があることが分かる
- 要約すると、これは極限状態(200年間で想定される最悪の年)での結果を示す指標