本サイトは、アクチュアリーが気候関連リスクを学ぶ上で必要な情報をまとめたものです。追加すべき情報があれば、ERM委員会までご連絡ください!
国際アクチュアリー会のClimate Issues
- 【シナリオ分析】Application of climate-Related Risk Scenarios to Asset Portfolios (April 2022): アクチュアリーが把握すべき気候変動シナリオをまとめたもの。気候変動リスクには、IPCCの代表濃度経路(RCP)、国際エネルギー機関(IEA)のエネルギー排出シナリオ、NGFSシナリオが含まれる。気候変動シナリオが保険会社や年金基金の資産に与える影響と、それを測定するための現在のフレームワークを理解するとともに、長期の割引率やALMに与える影響を検討した資料。
NGFSは気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク。気候変動リスクへの金融監督上の対応を検討するために、中央銀行や金融監督当局を中心に結成された組織。日本からは、日銀と金融庁が参加。2020年に報告書「中央銀行および監督当局向け気候シナリオ分析の手引き」と「中央銀行および監督当局向けNGFS気候シナリオ」を公表した。後者の報告書は、NGFSが提唱する気候変動リスクシナリオをより詳細、かつ具体的に解説したもので、金融機関が行うシナリオ分析の一つとして採用されることが多い。
- 【一般的情報】Climate Science: A Summary for Actuaries - What the IPCC Climate Change Report 2021 Means for the Actuarial Profession (March 2022): IPCC第6次評価報告書をアクチュアリー向けに要約したもの。過去の経験に基づいて将来のリスクを評価するアクチュアリーにとって、気候リスクの頻度と強度の不確実性と、それらに内在する変動性を理解することは重要であり、保険や年金の引受、プライシング、マネジメントそしてレポーティングに大きな影響を与える。用語集もついており、気候変動の科学的根拠を学ぶためにはオススメの文献。
IPCCは、世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により1988年に設立された政府間組織。各国の科学者が参加しながら、定期的に報告書を作成。気候変動に関する最新の科学的知見の評価を提供することで、各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えている。第6次評価報告書「気候変動における海洋と雪氷圏」の中で、いくつかのシナリオを提供しており、金融機関が行うシナリオ分析の一つとして採用されることが多い。
- 【シナリオ分析】Climate-Related Scenarios Applied to Insurers and Other Financial Institutions (August 2021): 気候変動に関するシナリオ分析を行う際に直面する課題を整理したもの。気候関連リスクは長い時間をかけて顕在化する性質を持っており、これが法的リスクや風評リスクに与える影響は不確実性を伴う。本資料は、シナリオ分析を行う際の実践的な提案を行うものであり、3つのケーススタディも含まれる。
- 【シナリオ分析】Introduction to Climate-Related Scenarios (February 2021): シナリオ分析は、不確実性が高い性質を持つリスクを評価する際に用いられる手法。気候変動が財務やビジネスに与える潜在的な影響を評価し、経営者の意思決定に役立つ情報を提供することができる。アクチュアリーが気候変動リスクに関与する機会も増えており、アクチュアリーがシナリオ分析を行うことを求める声も高まっている。気候変動の歴史的背景から、物理的なリスクと移行リスクの影響の範囲、気候変動のタイムホライズンを踏まえたリスク分析、そして地球規模で変化している気候変動リスクをモニタリングし、どのように対処していくのか。シナリオを作成する際に考慮すべき論点をまとめている。
シナリオ分析に関する日本語の文献としては、以下の2つがおすすめです。
はじめての気候変動シナリオ分析ハンドブック-生命保険協会: 気候変動シナリオ分析を実施するうえで、生命保険会社が抑えるべき基本的な知識を開設した資料。用語の解説も初心者向けであり、わかりやすい。
気候変動関連リスクに係るシナリオ分析に関する調査-金融庁:金融庁がまとめたシナリオ分析の資料。
- 【初級】Importance of Climate-Related Risks for Actuaries (September 2020): アクチュアリーがなぜ気候変動リスクに関与すべきかをまとめたもの。気候関連リスクを物理的リスク、移行リスク、法的・風評リスクの3つに分類。気候関連リスクは、資産評価の前提だけでなく、死亡率や罹患率の前提・損保の支払いの前提にも影響をあたえる。ERMと資本管理、投資、開示などの文脈で、アクチュアリーが果たすべき役割をコンパクトに整理している。
英国アクチュアリー会のSustainability
- 【初級】Climate change for Actuaries: Climate Change Working Party が作成した気候変動に関する入門書。モデルリスク、逆選択、死亡率・罹患率への影響など、気候変動が保険業界に与える影響を要約するとともに、資本市場に与える影響や規制の動向を概説している。気候変動リスクについて、利害関係者とコミュニケーションをとるのは難しい。人々が気候関連リスクの議論を避けたがる5つの要因を示すとともに、その障壁を超えて、アクチュアリーの気候変動リスクへの関与を促す目的で作成されたもの。
英国アクチュアリー会のClimate Risk and Sustainability Course
- 生涯教育の一環で始まった、気候リスクと持続可能性に関する有料コース。英国アクチュアリー会の会員であれば受講できる。
英国アクチュアリー会がまとめた生保向けの推奨ペーパー
- 生保委員会の気候リスクワーキングパーティがまとめたブログ。気候リスクのテーマは広範にわたるので、リスクガバナンス、リスクアペタイト、ストレステストとシナリオテスト、リスクマネジメント・フレームワークに絞って論文のレビューを行い、実務的な観点で有用と思われる資料をリストアップしている。
米国アクチュアリー会のCatastrophe and Climate
- 【開示関連】TCFD Best Practices:気候変動開示の実務に用いられるフレームワークに保険会社がどのように対応しているかを理解するための、現在の実務とベスト・アンド・エマージング・プラクティスを明らかにすることを目的とした調査。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD) の枠組みは、保険会社が気候変動リスクを 適切に管理するために使用され、ガバナンス、 リスク管理、戦略、指標に関する情報開示に 焦点を当てたものである。
TCFDは、2015年に銀行、保険会社、年金基金等の32機関のメンバーで設立された組織。2017年に公表した最終報告書「気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言」の中で、企業が気候変動のリスクと機会を認識し、経営戦略に織り込むことの重要性について言及。その後に設立されたISSBにおいても、TCFDの提言を基礎とした議論が行われている。
米国損保アクチュアリー会のClimate Change Resource Library
- 気候変動関連の研究などについて、CASの出版物や会議での論文、発表、記録、および関連するインタビューやプレスなどを収録したポータルサイト。
米国アクチュアリー・アカデミーのClimate Risk
- Actuaries Climate Risk Indexのデータや、規制当局へのコメント等が掲載されているサイト。
カナダアクチュアリー会のClimate Change and Sustainability Resources
- 気候変動に関する情報を、①気候変動に関する入門書、②リスクマネジメント・ガイドライン、③シナリオテスト、④その他の文献、⑤気候変動インデックスとデータベース、⑥気候変動の開示(TCFD)、⑦継続的な気候研究に分類したポータルサイト。
オーストラリア・アクチュアリー会のClimate Risk Resource Center
- 気候リスクに関連する職務に従事するアクチュアリーを支援し、専門職内でのベストプラクティスの共有や、気候関連問題に関する公共政策の議論に貢献する目的で作られたサイト。気候関連問題の学際的な性質に鑑み、他の様々な外部グループや専門職との連携も行っている。
- 【保険関連】Climate Change – Information Note for Appointed Actuaries:保険会社が気候変動によってどのような影響を受けるかについて概説したものであり、財務状況の報告書でどのように対処するかについて提案するもの。財務状況報告書の作成に当たっての保険計理人に対する要求事項を概説している。
いかがでしたか。気候変動とアクチュアリーの関係について、海外から情報を受け取れるようになると、知識の幅が広がります。国内では知られていない貴重な情報を得られることもありますので、ぜひ定期的にチェックしておくことをおすすめします。
その他の気候変動関連サイト
- 【投資関連】EUタクソノミー:EUのサステナビリティ方針に資する経済活動を分類したもの。
- 【投資関連】Net-Zero Asset Owner Alliance:2019年に設立されたアセット・オーナーのアライアンス。パリ協定の目標達成を目指す国際的なイニシアティブで、日本では、日本生命、第一生命、明治安田生命、住友生命、損保ホールディングスの5社が加盟(2022年6月時点)。
- 【保険関連】Net-Zero Insurance Alliance:2021年に設立された保険会社のアライアンス。発足時のメンバーはアクサ、アリアンツ、アビバ、ジェネラリ、ミュンヘン再保険、SCOR、スイス再保険、チューリッヒ保険で、2022年に東京海上ホールディングスが加盟した。
- 【保険関連】Mind the Sustainability Gap - CRO Forum:保険会社のリスクマネジメントの枠組みにサステナビリティを組み込むための「業界のベストプラクティス」となるガイドラインを定義することを目的とした資料。
- 【保険関連】国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI):1992年に国連環境計画と世界の金融業界のパートナーシップにより、持続可能な成長に対して、民間資金を振り向けることを促す目的で設定された機関。
- 【開示関連】はじめての気候変動対応ハンドブック: 気候変動が生命保険会社に与える影響と、TCFD提言の内容を、保険会社の開示事例も交えて解説した資料。
- 【開示関連】TCFDコンソーシアム:TCFD 提言賛同企業の取組を推進し、企業の効果的な情報開示や、開示された情報を適切な投資判断に繋げるための取組について議論するために設けられた場。
- 【開示関連】国際サステナビリティ基準審議会(ISSB):サステナビリティ関連の開示基準の包括的なグローバル・ベースラインを提供することを目的として設立された審議会。
- 【開示関連】金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」:企業情報の開示のあり方を議論する金融庁の審議会。
- 【開示関連】「コーポレートガバナンス・コード」と「投資家と企業の対話ガイドライン」:2021年6月の改定に伴い、プライム市場上場企業において、TCFDと同等の気候変動開示が追加された。
- 【開示関連】Partnership for Carbon Accounting Financials (PCAF):2015年に設立された国際的なイニシアティブ。金融機関が融資や投資に伴う温室効果ガスの排出量を評価・開示するための統一的な手法を開発。
- 【開示関連)Taskforce on Nature-related Financial Disclosure (TNFD):TCFDに続くイニシアティブで、自然生態系全体が起業に与える財務的影響や、その対応についての開示を促す枠組みを公表することを目的に設立されたフォーラム。
(参考文献)