保険の引受査定におけるAIの活用と不当な差別

米国アクチュアリー会のブログ記事「Big Data, Big Discussion」をもとに、関連する情報をまとめてみました。

保険の引受査定における不当な差別というテーマは、ここ数年で中心的な話題となり、さまざまな州の規制当局(ニューヨーク州やコロラド州など)が声を上げ、保護対象クラスに対する意図しない不当な差別を防ぐために、アンダーライティングにおけるビッグデータ(外部のデータソース)や人工知能(AI)の活用についてガイダンスを提供しています。

ニューヨーク州金融サービス局のガイドライン

  • 2019年1月に公表
  • 本ガイドラインでは、技術革新やテクノロジーの活用を支持するスタンスを取るも、データプロバイダーが当局の規制の対象外にある点を指摘。差別的な取り扱いを禁ずる法令の遵守を求めている。
  • ニューヨーク州は保険法などで特定のクラスの個人に対する差別を禁止(例えば、人種、肌の色、信条、国籍など)
  • 保険会社は差別を禁止する法令を遵守しているかどうかを独自に判断する必要がある。ベンダーが主張する無差別性などを単純に信じてはならない。責任は常に保険会社が負う。

コロラド州のガイドライン

  • 2023年1月から施行
  • 予測モデルについて、リスクマネジメント・フレームワークの中で管理し、CROがその適切性を証明する必要がある
  • 保険会社が外部データを使用することで、個人を不当に差別していないかどうかを、実行可能な範囲で判断するために合理的に設計されたリスクマネジメント・フレームワークを確立し、維持すること
  • 保険会社がアルゴリズムにバイアスがないかテストすることを義務付ける法律を制定した最初の(そして今のところ唯一の)州

その他の州の動向

  • コロラド州の法律とほぼ同じ法案が2022年にオクラホマ州とロードアイランド州で提出され、他の州でも同様の法案が検討される可能性がある。
  • コネチカット州では、保険会社にデータの利用が非差別的であることを証明するよう求める指針を確定している。
  • 他の州は特定の要因を対象としているが、ほとんどは様子見の姿勢をとっている。

過去20年の間に、かつてないスピードでデータの量とスピードが爆発的に増加しました。このため、保険バリューチェーンの様々な局面において、データ駆動型アプローチの採用や予測アルゴリズムの活用が進み、引受査定をはじめとする様々な分野で活用されるようになりました。Accelerated UWと呼ばれるこの技術は、より効率的な購入プロセスを実現し、従来のアンダーライティングプロセスに今日存在する摩擦を軽減することを目的としています。

米国では、Accelerated UWと呼ばれる代替データを活用した引受査定の仕組みが行われている。伝統的な引受査定では告知や血液や尿検査等を含む健康診断結果を用いていたが、一部の保険会社は、血液検査や尿検査等を省略し、代替データ、新しい分析やモデリング技術を用いて補完する仕組みを導入している。代替データには、処方箋の履歴やクレジット・スコア等が含まれる。Accelerated UWを導入することで、引受査定に要する時間が減少し、顧客利便性の向上と保険会社のコスト抑制が期待できることもあり、消費者と保険会社双方にとってメリットがある仕組みであると言われている。

「健康保険データに基づく糖尿病重症化の予測モデリングー新たな引受査定ルールの構築を目指して-」(リスクと保険 vol.18)

  • プロキシ差別(Proxy Discrimination)に関する議論が活発化するも、この用語の明確な定義はない。
  • 提案されている法的定義の一つは、「消費者を差別する目的で、保護クラスに基づく中立的な要素を意図的に置換し、その消費者が保険に加入したり、優遇された料率を得たりすることを妨げること」
  • 議論する中で、規制当局と業界の代表者は、このような行為は「不当な差別」(Unfair Discrimination)と同じ概念であることに気づいた。
  • NAICは、プロキシ差別や不当な差別といった重要な用語の理解を深めるためのホワイトペーパーを作成することを提案。
  • 保険会社が新たなデータと技術を引受査定で用いる中、監督の目は厳しくなることが予想される。
  • 保険会社がこのような高度な手法を採用する場合、消費者保護団体が透明性と説明責任を求めることは自然な流れ。
  • NAICはイノベーションとAIに焦点を当てた新しいハイレベル委員会を発足。
  • 最も精査されているデータソースは、クレジットスコアと、自動車記録(MVR)の2つ。
  • 消費者擁護団体や特定の規制当局は、クレジットスコアの使用は少数民族に不釣り合いな影響を与え、結果として有色人種の保険料が高くなると主張。
  • MVRは、米国では取り締まりと密接に関係しており、その結果、本質的に偏ったものであると主張されている。
  • 解決策は、これらのファクターの使用を禁止することだとも言われている。ワシントン州は、そのための規制を最終決定している。
  • 今日の引受査定のプロセスの多くは、相関関係に基づいており、因果関係には基づいていない。
  • コロラド州の法律をめぐる議論の中で、保険業界は相関的要因の考慮を禁止する条項の削除を主張した。
  • 保険会社は、因果関係を示さない多くの引受要素を使用している。アクチュアリー実務基準第12号は、必ずしも因果関係ではなく、相関関係に基づく価格設定や予測を認めている。
  • 保険会社は、規制当局や政策立案者に対して、なぜ相関性のあるリスクファクターが許されるのか、その教育に力を入れるべき。ただし、見せかけの相関は許されない。

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