GPIFの国内株式運用機関が選ぶ「優れたTCFD開示」

2022年3月23日にGPIFが「優れたTCFD開示」を行っている企業27社を公表しました。

TCFDとは

TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務報告開示タスクフォース)とは、G20傘下の金融安定理事会(FSB)が2015年に設立した組織のこと。民間の銀行、保険会社、資産運用業者、年金基金、事業会社、監査法人、格付機関などで構成される。TCFDは2017年6月に最終報告書を公表し、企業などに対し、気候変動関連リスク・機会に関する4つの項目(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)について開示することを提言している。

  • ガバナンス:気候変動リスクに関連するリスクと機会。そのガバナンス体制の開示を求めるもの。
  • 戦略:リスクと機会が、企業の戦略にどのような影響を及ぼすのか。中長期的な視点も含めて開示を求めるもの。
  • リスク管理:企業のリスクマネジメントプロセスの中で、気候変動リスクがどのように取り扱われているのか。リスク認識、評価、そしてマネジメントのプロセスの開示を求めるもの。
  • 指標と目標:リスクと機会を評価、管理する際に用いる指標と目標の開示を求めるもの。

高い評価を得た「優れたTCFD開示」4社

GPIFは、国内株式の運用を委託している運用機関に対して「優れたTCFD開示」の選定を依頼。その結果、27社が「優れたTCFD開示」として選ばれた。そのうち、多くの運用機関から「優れたTCFD開示」として高い評価を得た企業として、以下の4社の選定理由を公表。

  • キリンホールディングス
  • リコー
  • 三菱UFJフィナンシャルグループ
  • 日立製作所

27社の中には、金融機関ではSMBC、みずほ、MS&AD、東京海上ホールディングスの名前が挙がっています。ただ、得票数を見ると、MUFGが抜きんでています。

三菱UFJフィナンシャルグループのTCFD開示

金融機関でもっとも評価が高かった三菱UFJ。その選定理由を見ると、

気候変動に対する自社の影響度の大きさを意識した網羅性の高い情報開示を実施。シナリオ分析における開示充実の取組み、今後のアクションプラン、アセットマネージャーとしての TCFD 対応の開示を高く評価

GPIF の国内株式運用機関が選ぶ「優れた TCFD 開示」

気になるシナリオ分析について、同社のTCFDレポートを見ると、

移行リスク:国際エネルギー機関(International Energy Agency: IEA)の2℃シナリオ、NGFSの1.5℃シナリオ など

物理的リスク:IPCCのRCP2.6(2°Cシナリオ)、同8.5(4°Cシナリオ)

ここで、藤井さんの気候変動リスク管理を見ると、

気候変動リスクシナリオには、大きく2種類のシナリオがある。1つ目は、将来の気温上昇を(例えば2℃に)設定して、そのために必要な政策導入を前提とするシナリオ(「第一のシナリオ」と呼ぶ)であり、もう1つは、温室効果ガス排出のさまざまなケース(気温情報パス)から、気温上昇の範囲を求めるシナリオ(「第二のシナリオ」と呼ぶ)である。産業革命以前に比べて、地球の平均気温上昇を2℃未満に抑えるという、いわゆる2℃シナリオを含むIEAのアプローチは前者、第1章で示したIPCCのアプローチは後者による。

移行リスクは、例えば2℃シナリオに向けて追加政策がとられることを想定していることから、第一のシナリオがよりフィットする。一方で、物理的リスクは、さまざまな温室効果ガスの排出状況や、波及経路の結果として地球温暖化がどのように進むかに注目しており、第二のシナリオがフィットする。

「金融機関のための気候変動リスク管理」の259~260頁

この記載と、MUFGのシナリオ選択は整合的ですね。さらに、

TCFDは、気候変動リスクの不確実性を踏まえて、物理的リスクと移行リスクにかかる2℃シナリオを中核とした、複数のシナリオを想定することが望ましい、としている。また、シナリオの選定にあたっては、自社の組織に影響の大きいシナリオを想定することが、戦略の強靭性を評価するうえでも望ましく、2℃シナリオのような中核シナリオに加えて、自社に影響の大きいシナリオを加えることが望ましい。

「金融機関のための気候変動リスク管理」の259~260頁

とあります。「NGFSが公表した1.5°Cシナリオを含む複数のシナリオ」と複数のシナリオを想定している点も、TCFDのレコメンデーションとおりです。

NGFSを含む、シナリオ分析を検討する際に参考となる文献は以下のサイトで纏めています。

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