アクチュアリー行動規範の改正およびアクチュアリー行動基準の制定について
日本アクチュアリー会の定款には「行動規範」という単語が2回登場しています。
会員は、別に定める「アクチュアリー行動規範」を遵守するものとする。
日本アクチュアリー会定款第7条第2項
本会は、会員が次の一に該当するときは、別に定める懲戒規則の手続きに従い、その会員を懲戒することができる。
(1) 本会の名誉を害するような行為をしたとき
(2) この定款又は別に定める「アクチュアリー行動規範」に違反する行為をしたとき
日本アクチュアリー会定款第11条第1項
違反すると、懲戒の対象にもなり得る、アクチュアリーにとって重要な行動規範が改定されました。
今回の行動規範の改正における個人的な注目点は以下の3つ。
アクチュアリー行動規範
総則から「保険及び年金」という文言が削除
総則にあった「保険及び年金にかかわる」という部分が「その関与する事業」に変わっています。
アクチュアリーが活躍するフィールドの拡大を反映したもの、だと思います。
旧 | 新 |
アクチュアリーは、的確な現状認識と将来予測に基づき、数理的手法等を活用して、保険及び年金にかかわる財政の健全性の確保と制度の公正な運営に努めることを主要な業務としている。その業務には、公共の利益に深くかかわるものも少なくない。このような業務を行うには、高度な識見と専門知識に加えてアクチュアリーへの信頼が不可欠であり、従って、アクチュアリーは、常に専門能力の向上に励み、専門職能者としてその機能を十分に発揮し職責を全うすることが肝要である。これは、アクチュアリーの業務提供を直接受ける人々から高い評価を得、専門職能者として社会の信頼を得る根源である。それによって社会に貢献することが基本である。 アクチュアリーがその職責を全うし、社会の信頼をさらに確かにするため、公益社団法人日本アクチュアリー会(以下「本会」という。)は、会員が専門職能者として行動する際の指針として、ここにアクチュアリー行動規範を制定する。 | アクチュアリーは、数理的手法等を活用して、的確な現状認識とそれに基づく将来予測を行い、その関与する事業の健全な発展や公共の利益の増進に努めることを主要な業務としている。このような業務を行うためには、高度な識見と専門知識が必要であることに加えて、アクチュアリーへの信頼が不可欠である。そのために、アクチュアリーにとっては、専門能力の向上に努め、専門職能者としてその機能を十分に発揮し職責を全うすることが重要である。 アクチュアリー行動規範は、アクチュアリーが専門職能者としてその職責を全うし、社会の信頼を確かなものにするための行動の指針である。 |
コンプライアンスとして実務基準の遵守が追加
これまで曖昧だった、行動規範と実務基準の関係が明文化。
実務基準を遵守しないと、行動規範上のコンプライアンスに違反するので、懲戒の対象となり得る、ということでしょうか。(もちろん、違反の程度によりますが)
そうなると、次の論点は、実務基準の内容の粒度が保険と年金で異なる、という点でしょうか。
実務基準に担当者レベルの記載をしている年金に対し、実質的に保険計理人の実務基準しか存在しない保険。
このアンバランスな状態を是とするか否かの議論が待たれます。
旧 | 新 |
(新設) | 会員は、専門業務に関連する法令等および実務基準に通じ、これを遵守するものとする。 |
「依頼者」の注釈が削除
「依頼者とは誰なのか」
ここは明確化して欲しいと思っていた部分ですが、その注釈が削除されています。
コンサルティング・アクチュアリーであれば、イメージしやすい依頼者。
でも、日本のアクチュアリーの大半は保険会社や信託銀行で働くインハウスのアクチュアリー。
「インハウス・アクチュアリーの場合の依頼者は誰なのか」
行動基準の第5条第3項のただし書きで、「依頼者」を定義していますが、今後のさらなる明確化を期待しています。
旧 | 新 |
(注 4-2)「依頼者」とは、その専門業務を行うアクチュアリーを選び、業務の結果を直接に利用する立場にある者をいう。 | (削除) |
アクチュアリー行動基準
次に、今回新設された「アクチュアリー行動基準」。
旧行動規範のうち、具体的な行動に関する内容の移管、および行動規範の表現の意味の解説・明確化を図るための基準とされています。
行動基準における個人的な注目点は以下の3つ。
日本以外の国での業務を意識した記載
第3条の誠実義務、第4条のコンプライアンスで「日本国外」という単語が登場しています。
アクチュアリー業務のグローバル化を反映したもの、だと思います。
特に、先進国の実務基準は、日本よりもかなり細分化されているので、関係する人は要チェックです。(⇒ 「保険料の細分化」を参照)
第3条 | 行動規範第3条における「誠実」には、会員が次のように行動することを含む。 (1) 自己の専門業務を、正直に、勤勉に、かつ責任をもって行うこと。 (2) 自己の専門能力を踏まえて、通常期待される注意を払うこと。 (3) 自己以外の会員の意見を尊重し、協力して専門業務を行うこと。また、日本国外のアクチュアリー団体に所属する者、その他の専門業務に関わる者に対しても同様に振る舞うこと。 |
第4条 | 行動規範第4条における「法令等および実務基準」には、日本国内のものに限らず、日本国外に関する専門業務を行う場合に参照すべき法令等および実務基準を含む。 |
専門業務を行う上での一般的な事項
旧行動規範にはなかった、ISAP1を意識した表現が追加されています。(⇒ ISAPについてはこちら)
この条項のおかげで、アクチュアリーが行う「専門業務」がより明確化されました。
第5条第4項 | 会員は、専門業務を行うにあたっては、別表に定める通り、次の事項を考慮する。これらは一般的な事項であり、他に考慮すべき事項がある場合はそれも考慮する。 (1) 重要性の評価 (2) データの品質確保 (3) 数理上の前提と手法 (4) モデルガバナンス (5) 検証 (6) 報告 |
高度化かつ多様化していく専門知識へのキャッチアップ
第2項に、あえて「必要となる専門知識が高度化し多様化していくことを含む」という条項が追加。
アクチュアリアル・サイエンスがカバーする範囲は、時代とともに変化する、ということを反映したものだと思います。
継続教育の重要性を再認識させられる一文です。
第8条 | 第8条 会員は、専門業務の特性に鑑み、自己研鑽や相互研鑽等を通じ、専門能力および専門業務に関する幅広い能力の維持向上に努めるものとする。 2 前項における「専門業務の特性」には、たとえば、必要となる専門知識が高度化し多様化していくことを含む。 |