ネオファースト生命の認知症保障保険 ~「歯の健康度」に応じた保険料割引の根拠を考えてみる~
(この投稿は2021年11月23日に記載したものです)
「歯の健康度」による保険料割引を行う認知症保険が発売されました。
「歯の健康度」と認知症リスクの関係がさまざまな研究で明らかにされていることに注目し、「歯の健康度」による保険料割引の仕組みを導入しました。被保険者の年齢が70歳となる年単位の契約応当日(割引判定日)において、被保険者の永久歯の本数(残存歯数)が20本以上である場合、歯数割引特則の適用により、以後の主契約(死亡保障特則を除きます。)および軽度認知障害保障特約の保険料について割引を受けることができます。
ネオファースト生命のリリース
「20本」という閾値は、「80歳になっても自分の歯を20本以上保とう」という「8020運動」を参考にしたものだと思われます。
歯の本数が20本以上ある人は、どの程度いるのか?
そんなときによく参照するのが、国民健康・栄養調査です。
令和元年の統計を見ると、「歯の本数の分布」を発見。これを見るとよさそうですね。
40-49歳 | 50-59歳 | 60-69歳 | 70-79歳 | 80歳以上 | |
20本以上 | 96.1% | 89.7% | 69.4% | 45.7% | 31.8% |
次に気になるのが、保険料の割引水準。
59c01e1cff4039588063e8ddf1bbe2ed年齢や性別によって割引幅は違いますが、1割~3割程度の割引です。
では、どうやってこの割引水準を決めているのでしょうか。
予定発生率・損害額又は予定解約率等については、基礎データに基づいて合理的に算出が行われ、かつ、基礎データの信頼度に応じた補整が行われているか。
保険会社向けの総合的な監督指針 令和2年12月
とあるので、保険会社が「歯の本数」と「認知症」の支払いデータを持っていて、それらの基礎データに基づいてアクチュアリーが合理的に算出・・・そんなことはないと思います。
「歯の本数」なんて、通常の保険会社は持ってないし、認知症データを集めるのは大変です。
データがない中で、どうやってリスクを予測するのか。
そんなときに役立つのが論文です。
たとえば、
Association Between Self-Reported Dental Health Status and Onset of Dementia
目的
認知機能障害のある人は歯の健康状態が悪いという研究結果がある。
しかし、その因果関係の方向性は不明のままである。
今回の前向きコホート研究では、日本人高齢者の歯の健康に関する4つの自己申告項目と認知症発症との関連性を明らかにすることを目的とした。
方法
65歳以上の4425人の住民を対象に分析を行った。
歯の健康に関する自己申告の変数は、歯の数および/または義歯の使用、咀嚼能力、定期的な歯科医の有無、歯の健康管理の有無の4つだった。
データは、2003年に実施された自記式の質問票を用いて収集された。
2003年から2007年の間に認知症になった人の記録は、公的介護保険制度を管轄する自治体から入手した。
年齢、所得、肥満度、現病、飲酒、運動、物忘れを共変量として用いた。
結果
認知症の発症は220名の参加者に記録された。
単変量Cox比例ハザードモデルでは、歯の健康変数と認知症発症との間に有意な関連が認められた。
すべての共変量を完全に調整したモデルでは、回答者の認知症発症のハザード比(95%信頼区間)は以下の通りであった。
歯数が少なく、入れ歯がない人では1.85(1.04-3.31)、よく噛めない人では1.25(0.81-1.93)、定期的に歯科医院に通っていない人では1.44(1.04-2.01)、歯の健康管理をしていない人では1.76(0.96-3.20)であった。
結論
日本人高齢者の認知症発症リスクは、咀嚼の悪さや歯の健康に対する意識の低さではなく、入れ歯のない歯数の少なさや定期的な歯科医の不在と関連しており、共変量を調整してもなお、認知症発症リスクは高かった。
この論文では、歯の状態や入れ歯の使用状態と認知症になっている人の割合が示されています。
入れ歯を使用していない場合、歯が20歯以上残っている人と比較して、認知症の発症リスクが最大1.9倍となっています。
でも、だからと言って、保険料が1.9倍になるわけではありません。
なぜなら、保険料(正式には、営業保険料)=純保険料+付加保険料となっており、付加保険料は必ずしもリスクに比例して増えないから。
ネオファースト生命は付加保険料を開示していませんが、開示している会社もあるので、こちらを見ると水準感がわかると思います。
以上の数値があれば、保険料の割引水準を概算することができるかも。
そもそも、「歯の本数で保険料を細分化してもよいのか」という疑問を持つアクチュアリーは、以下の記事もあわせて読んでみてください。