ロシア・ウクライナ紛争が保険業界に与える影響
2022年3月17日のFinancial Timesの記事に保険業界がウクライナ戦争を懸念する記事が載っていました。
保険業界、ウクライナ戦争による支払額急増に備える
- ロシアのウクライナ侵攻により、足止めされた飛行機、破壊された船、爆撃された建物、回収不能な債務が発生し、世界の保険業界は急増する支払いと長引く法的紛争に頭を抱えている。
- 西側の制裁強化により、ロシアの航空・宇宙分野が保険・再保険市場から締め出される中、リスクは高まる一方と予想される。
- 保険会社は、ロシアの損失を拡大させる可能性のある新規契約を謝絶したり、将来の請求からロシアを除外するよう契約を書き換えたり、危険な海域を通過する船舶をカバーするために高額な追加保険料を要求したりして、紛争に対するエクスポージャーを抑えようとしている。
- しかし、戦闘に巻き込まれた被保険者の船舶、航空機、建物、商品には、すでに損害が発生している可能性がある。
記事を読む限り、さまざまな見方があるようで、まだその影響は不透明な様子。
翌日3/18の日経新聞やロイターの記事を見ると、ロシアから撤退する動きがあるようです。
海外損保大手、ロシア撤退
- アリアンツがロシアでの新規契約を停止、ロシアへの投資も行わない方針
- ゼネラリもロシアから撤退
- ミュンヘン再保険もロシアからの撤退を発表
- スイス再保険はロシアとベラルーシの新規契約・既存契約の更新を停止
- チューリッヒ保険もロシアの新規契約・既存契約の更新を停止
- ハノーバー再保険は、ロシアとベラルーシの新規契約と更新を保留
- ロシアは、14日に新法を施行し、日本を含む「非友好国」の保険会社等との取引を禁止
(2022年4月10日追加)
4月9日の読売新聞で「日本の損害保険会社が、ロシアでの保険引き受けを全面停止したことがわかった。契約更新も含めて受け付けていない。」と報道。
難しい舵取りを迫れらている保険会社。一刻も早い紛争解決を願う一方、今後のシステミックリスクを回避するのも保険会社の重要な役割だと思います。どんなリスクが考えられるのか、その参考になるかもしれない記事をMarshが公表していました。
ロシア・ウクライナ紛争 リスクに関する考察の概要
ロシアとウクライナの紛争は、ウクライナ全土に悲惨な人命の損失と破壊をもたらし、わずか2週間で200万人以上の難民が近隣諸国に流れ込んでいます。ウクライナの都市への激しい砲撃と衝突が続く中、死者の増加と人道的災害の展開が最も懸念されるところです。
この危機はまた、世界中で政治的・経済的な混乱を引き起こしており、企業はこの地域や世界各地の人々、資産、事業、サプライチェーンに対する紛争関連のリスクを回避しています。また、企業は、進化する制裁体制がビジネスに与えうる影響について、法的助言を求めています。保険に関しては、保険料の支払いや保険金請求の取引が停止されたり、銀行が処理前にさらなる情報を求めるなど、遅延が発生する可能性があります。
- 政治リスク:ロシアは国内の資産を凍結するリスクがある。
- 貿易信用:取引信用リスクの観点からは、ロシアやウクライナで契約しているトレーダーは、支払遅延や債務不履行に見舞われる可能性が高い。
- サイバーリスク:サイバー攻撃が激化し、その影響はロシアへの経済制裁を行っている国々を含め、地域的、世界的に及ぶ可能性があるとの懸念が広がっている。
- 航空:広範かつ流動的な制裁措置は、航空保険の被保険者や保険会社にとって大きな課題となっている。
- 宇宙:打ち上げ活動や探査への影響の度合いはケースバイケース。
- エネルギーと電力:今回の紛争は、ロシアの天然ガスへの過度な依存を露呈し、いくつかの国のエネルギー戦略に変化をもたらす。
- サプライチェーン:紛争が長引けば、商品市場に甚大な影響を及ぼす可能性がある。(ロシアとウクライナは世界の小麦供給の29%、トウモロコシの19%、ヒマワリ油の80%を輸出。ウクライナは半導体の生産に使われるネオンガスの大部分を供給しており、ウラン、チタン、鉄鉱石、鉄鋼、ニッケル、銅、パラジウム、プラチナ、バナジウムの重要な生産地でもある)
- 不動産:ウクライナ全土の不動産に甚大な影響が発生している(ただし、20世紀初頭以降の契約には戦争免責があり、保険会社はこの条項を適用する可能性が高い)。
- 金融機関:保険の観点から、金融機関は、制裁、物理的資産、金融危機を考慮することが重要。
- ESG:世界エネルギー会議の「エネルギーの安全保障」「公平性」「持続可能性」という3つの柱を見直す必要に迫られている。